早いもので、この春から着任5年めを迎えます。人的交流が通常通りに行えるようになった昨年は、学会発表や教室員の交流等を活発に行うことができました。その重要性を改めて感じているところです。おかげさまで、大学院生を中心とした教室での教育・研究活動は、安定してきていると感じています。2024年は、さらに研究活動を重点的に拡張していきたいと考えております。

チャレンジを続けましょう!

2024年2月18日

北海道大学大学院保健科学研究院教授

蝦名 康彦

北産婦医報 第135号 (北海道産婦人科医会 2023年12月発刊)

巻頭言 蝦名 康彦

令和5年は産婦人科医療に関連する重要な出来事が数多くありました。まず、上半期の出生数は37万1000人余りと昨年比で3.6%減少しており、最終的には70万人台前半と過去最少になる見込みです。そして5月には新型コロナウイルスが感染症法上、インフルエンザと同じ5類感染症になりました。また、国内初の人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」が承認され、緊急避妊薬の試験販売が行われ、そして出産費用を公的医療保険の対象とするか議論されています。

さて、看畿学・助産学の教員として、日々若い学生さんと接している当方としては、HPVワ クチン接種を推進したいところです。キャッチアップ接種期間は残り1年余となりました。そこで、令和5年7月~8月にゼミ生とともに、本学の学生を対象として、アンケート調査「女子大学生のHPVワクチンキャッチアップ接種に関連する要因の検討」を行いました。HPVワクチン接種歴は、①すでに3回接種済み22%、②キャッチアップ接種を1回以上利用した33%、③今後キャッチアップ接種を希望する26%、④接種を希望しない15%、⑤接種歴不明4%でした。①+②+③を接種肯定(A)群、④を否定(B)群と2群に分けて検討しました。HP Vや子宮頸がんに関する知識量に2群間の差はありませんでしたが、ワクチン接種に関する知識量はB群で低い結果でした。またB群はA群と比較して、HPVワクチンの必要性や有効性を感じている頻度が低く、家族や友人などの身近な人から接種を勧められたことかなく、副反応ヘの恐怖心が強いという結果であり、さらに次世代のHPVワクチン接種にも肯定的な思いをもっていないことが明らかになりました。すなわち、子宮頸がんやHPVの知識だけでは接種行動につながらず、知識の啓蒙以外のアクションが必要と考えられます。現在でも「副作用報道の映像が忘れられない」という声も聞かれ、一度受けたネガティブな印象を払拭するのは並大抵ではないようです。そして身近な人たち、特に親を中心とする家族の存在が大きいように感じます。成人しているとはいえ、ワクチンに否定的な親のもとで育った学生は接種にいたっていないようです。親世代にも遥切なアプローチが必要ではないでしょうか。一人でも多くの若い女性が危機感を共有し、自分の意思でワクチン接種へ向かうように活動していきたいところです。

そして、忘れてはならない大変革はchatGPT(令和4年11月公開)など生成系AIの爆発的普及です。令和5年春に、人工知能学会が「本学会倫理委員会にて2017年2月に公開した 「人工知能学会倫理指針」においては、高度に自律的なAIにはその第9条で「人頚の平和、安全、福祉、公共の利益に貢献し、碁本的人権と尊厳を守り、文化の多様性を尊重し、誡実に振る舞うことの違守」を求めており、大規模生成モデルにおいてもこの点を踏まえた発展を求めます。」との見解を出し、新学期に入り各大学から「生成系AIの利用に関する留意事項」が発表されました。北大では5月31日に副学長名で、「生成系AIの利用に際し、本学の教育理念に照らしながら、このような技術を用いて教育学習を高度化する手法を探求すると同時に、 教育利用についての懸念を踏まえ、慎重な利用を心がけてください」との声明か発出されました。当時、「レポートの提出では評価が難しくなるね。」などと話していたように記憶しています。それから半年がたち、思いつく限りでも、診断支援ツール、医学教育とトレ―ニング、予約システムやオンラインカウンセリングプラットフォーム、医療事務作業の支援などに活用が広まっているようです。当方は、春ころから様子見で使っていましたか、1ヵ月ほど前に4.0を導入してからよく使うようになりました。目的に応じたいくつかのプラグインを用いて、研究活動の時短化・省力化を目指しているところです。たしかに、入力する情報に注意が必要であり、出力情報の信憑性を確認しなければなりません。しかしツールとして割り切ると、「固定電話から携帯電話」くらいのインパクトがあるのではないかと感じています。

令和6年の幕開けに際し、私たちはまた新たな一歩を踏み出します。4月には医師の働き方改革の新制度が開始されます。昨年までの成果を礎に、さらなる協力の精神をもって、女性の健康のために力をあわせていきたいものです。新しい年が、皆様にとって希望と成長の年となるよう心よりお祈りいたします。

2023年2月のご挨拶

おかげさまをもちまして、この春から着任4年めに突入いたします。医学研究科から保健に移ってきたときにたてた教室の目標と研究テーマが、少しずつ実態をみせはじめている感があります。しかし、他専攻や他学部、そして学外機関との協働をさらに加速させていく所存です。そして教育面では、かつては数人の大学院生にマンツーマン方式で行ってきた研究指導を、人数がどんどん増えてくるなかで縦横のつながりを有機的かつ効率的に活かす方向に変えていきます。互いに刺激しあい、1+1が3になるような関わり合いを醸成していきたいものです。コロナ禍への対応がさらに変わりそうであることも期待できる情報です。

礼節、そして時として厳しさは必要であることはいうまでもありませんが、皆さんがのびのびとして、やりがいを感じながら、それぞれの貴重な時間をすごす、そんな1年になってほしいと願います。チャレンジを続けましょう!

2022年6月のご挨拶

Covid-19感染に注意しながらではありますが、学生さんがキャンパスへ戻ってきて、対面での授業が主体になりました。また、このごろでは授業担当や研究指導を行っている学生さんがずいぶん多くなりました。6月はとくに授業担当が重なり、最大瞬間風速の状態ではありますが、気がつけば学部1年から大学院博士後期課程まですべての学年の授業・講義・実習を担当しています。全学教育1年 「 一般教育演習(フレッシュマンセミナー)女性と内分泌系」、保健学科2年 「保健・医療概論」、保健学科看護学専攻2年 「母性看護学概論」、看護学専攻3年 「母性看護学援助論(演習)」、看護学専攻4年 「看護研究Ⅲ」、修士課程看護学コース 「助産診断・技術学特論」、修士課程看護学コース 「ウイメンズヘルス特論」、博士後期課程看護学コース 「女性生涯看護科学特講」といった具合です。さまざまな段階で異なる学修目標をもつ学生・院生のみなさんを受け持ち、圧倒的分量のアウトプット/インプットの速度と密度が高まり、まさにともに学んでいる状態です。そして、若いみなさんの豊かな着想にはっとさせられることの連続です。当方としては、30年以上にわたる臨床経験に根ざした知恵や考え方をできるだけ伝えていくべく、日々工夫をしています。そうなると、対面授業のほうが単なる情報量では測れない「伝えること、伝わること、伝わりやすさ」が豊かであると実感しています。

ちょうど来年度へ向けて、院生やゼミ生の募集を行っている時期です。ともに学び、前へすすんでいきましょう!

2022年1月のご挨拶

早いもので、着任して3年目の春を迎えます。

COVID-19パンデミックは終息せず、関連する社会環境の変化により、女性のメンタルヘルスは悪化しているとされます。妊産婦においても、里帰り分娩や立ち会い分娩の制限、胎児感染の不安などから、メンタルヘルスケアの必要性が増しています。一方、HPVワクチンの積極的勧奨が再開されることになり、キャッチアップ接種も計画されています。しかし、大学生を対象とした調査結果によると、ワクチンの副作用に関する恐怖感の強い者がとても多いことがわかりました。いまこそ正しい情報と落ち着いて考える機会を与えて、ワクチン接種の自己判断が適切にできるようにしなければならないと考えます。

さて2022年度から、博士後期課程の専門科目として「女性生涯看護科学特講」および「女性生涯看護科学特講演習」を新設いたします。これで、母性看護、助産、女性医学の教育は、学部→修士課程→博士後期課程まで、継続的かつ体系的に行うことが可能となります。ぜひご期待ください。そして学部教育においては、北大医療系教育の中での「新しい看護教育」という視点で、少し考えていきます。

本年も学内外の先生方と協力しながら、多種のプロジェクトとしてすすめていきたいと存じます。ひきつづきよろしくお願い申し上げます。

2021年5月のご挨拶

2020年5月1日に着任して、ちょうど1年が過ぎました。着任以来、多くの方々から、たいへん温かいご支援を頂戴いたしました。あらためて深く御礼を申し上げます。新しいフィールドでの活動となりましたが、研究院の諸先生方のお力添えによって、試運転の期間を終えて、定常速度での運行が可能となっている思いであります。また、学部生、大学院生の皆さんと学ぶ中に、多くの「気づき」を感じる日々であります。

さて、「産婦人科医療を取り巻く社会的ニーズが高い課題に対して、エビデンスを求め解決につなげる」ということを教室の主たる目標としました。現在は、産後うつ病に関する研究を大学院生とともに取り組んでいます。5月10日から「産後うつ病に対する妊娠期の予防的介入に関する全国調査~実態と関連要因の検討~」を行います。これは日本全国の分娩を取り扱う病院もしくは診療所(2,161施設)の産科/産婦人科病棟で勤務している助産師さんを対象とした調査研究です。詳細は別ページに掲載いたしますので、ぜひご協力を賜りたく存じます。そして、同時に新たな手法を用いた、産後うつ病の病態解明を目的とする研究も進めています。

そして今年度からの目標は、助産学・母性看護学グループとしての有機的なつながりをもった活動です。はなはだ微力ではございますが、初心を忘れずに一意専心してまいる所存でございます。ひきつづきどうぞよろしくお願い申し上げます。

2020年9月のご挨拶 

2020年5月1日に、北海道大学大学院保健科学研究院創成看護学分野の教授として着任し、4ヶ月あまりが過ぎました。

保健科学は、病者、疾病回復者、未病者、そして健康者をも対象として、身体的・精神的・社会的に健全な生活を回復維持および増進させるための学問領域であります。本研究院で行う看護や助産に関する教育・研究は、私にとって新たなチャレンジであります。私が専門とする産科婦人科学は、生命の誕生に関わるとともに、女性の生涯にわたる健やかさを守る医学分野です。そして、それは医療の高度化、少子化や高齢化といった社会構造の変化にも密接に絡んでいます。したがって、今後は産婦人科医療を取り巻いている、もう少し広い領域のテーマを対象として、社会的なニーズに対して科学的なエビデンスを求め、そして解決に向けて取り組んでいくことにいたしました。例えば、前任の佐川教授も取り組んでいた「特定妊婦」の問題です。これは、若年妊娠、経済的困窮、未受診などの妊婦を指しており、適切な介入を行わないと、児童虐待等に繋がりかねないものです。妊娠期から、該当者をいかに早期に把握してどのようにアプローチするのか、そして産後に地域保健担当者へいかに繋げていくかが求められています。一方、出生前診断の高度医療化に伴い、着床前診断や無侵襲的出生前遺伝学的検査(noninvasive prenatal genetic testing; NIPT)が可能となりました。がん治療においても、ゲノム情報に基づく個別化医療が現実化し、遺伝性腫瘍の予防・治療が行われています。このような遺伝診療においては、複雑で難解な病態の理解を助けて、適切な自己決定ができるしくみが必要です。遺伝診療部、そして遺伝カウンセリングの体制は整いつつありますが、看護の視点でのクライアントへの支援、継続的なかかわりについて研究が必要と考えております。これまで行ってきたハードの部分としての医学研究を続けてまいりますが、先に述べました保健科学に根ざした「人の心に寄り添うケア」に着目したソフトの部分の研究も両輪として進めてまいります。他臨床施設と有機的に協働させていただき、新たなエビデンスを構築して発信できればと考えております。

 様々な環境で30年あまり産婦人科医として臨床・教育・研究に携わってきた私であります。現場で培ってきた経験やノウハウを、次世代の医療を担うプロフェッショナルを育成するために活かしきりたいと思います。そして、わが国が抱える少子化・高齢化の課題に対し、医療現場の指導者、保健科学の研究者としての役割を担うことができる助産師や母性看護の人材を育成いたします。さらに、一線で働いている医療スタッフに対する社会人教育の場を形成し、ステップアップの一助となればと考えております。

 着任した2020年5月は、コロナウイルス感染対策のため、学生はキャンパス内立入禁止、職員の方々は在宅勤務となっており、ひっそりとした研究室の船出となりました。そのような着任以降、すでに学内外の多くの方々から大変温かいご支援を頂戴いたしまして、あらためて深く御礼申し上げます。はなはだ微力ではございますが、先人から引き継いだ歴史と伝統に新たな頁を加えるべく、一意専心してまいる所存でございます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。